こなさんみんばんわ。

そんな訳で、新しい Affinity の発表から 5 日が経過しました。1 ヶ月前くらいから意味深なメッセージやらティザー動画がアップされてて、まぁ新バージョンやろなとは思ってましたが、今回も買い切りで 3 アプリ合わせて限定特価 1 万ちょいくらい、でも Canva プロユーザーだったら無料です! くらいの予想をしてたら、3 アプリが 1 つになったのに加えてまさかの誰もが永久無料1で、さすがにちょっとほえーっとはなりました。

以前から軽くて高機能なアプリとして定評もありましたし、それが無料で手に入るともなればそりゃ耳目も集めるというもの2。ただ、これは世の常でもあるんですが、こういうショッキングな発表が出るとどうしても「もう Adobe は不要!」みたいな極端なことを言い出す方が出てきますし(実際にいました…晒したりはしませんが😅)そういう意見を読んで「これで脱 Adobe できるかも…」のような期待をされてしまう方も、ある程度はいらっしゃるような気がしております。

そこで、本日は Photoshop だけなら 20 年以上、前職では他も含めて Creative Cloud アプリを 10 年ほど使い倒し、そこの退職をきっかけに以降はデザイン作業をすべて Affinity アプリのみでこなしている筆者3より、実際に乗り換えようと行動に移す前に、これだけは理解しておいていただきたいかなぁ…ということをお伝えしておこうかと思います。

Affinity の弱点:日本語関係の機能は貧弱です

結論から申し上げますと、Affinity アプリは日本語の組版やタイポグラフィ関係の機能が Adobe アプリと比較してまだまだ貧弱なので、その辺も Photoshop や Illustlator, InDesign などと同じ感覚で使えると思ってると必ず痛い目を見るはずです。涙

文字詰めはほぼ手作業になる

スクリーンショット: 新しい Affinity の文字パネルで、カーニング設定のプルダウンメニューを開いたところ

もちろん Affinity にも文字パネルはありますし、そこでカーニングやトラッキングを調整することもできる訳ですが、そのカーニングで選択できるプルダウンメニューの中に入ってるのは、数値と「自動」のみ。Photoshop や Illustrator にはこの辺に「メトリクス」や「オプティカル」という項目があったはずですが、見当たらないですね…

そうなんです、Affinity にはフォントのグリフが持ってる情報や文字の形状を見て、自動で文字間をいい感じに調整してくれる機能はないのです。「自動」というのは主に4欧文フォントに含まれているペアカーニングを有効にするもので、色々な文字詰めを全自動でやってくれるという意味ではありません。涙

なので、日本語の文字詰めを行いたければ、基本的にはひとつひとつ手作業で調整していくしかないんですね。実際に 1 からやるとなるとけっこう大変だと思います…ていうか初期に実際やってみて大変でしたので言ってます。涙

タイポグラフィパネルで OpenType のプロポーショナルメトリクスを有効にできるフォントも一部に存在しますが(後述)OS に標準で入っているようなフォントはまず対応してないので、フォント選択の自由度はどうしても狭まりますね。乗り換えるならその辺の覚悟は必要かと思います。

縦書き・ルビなどに非対応

これは色々なところで触れられてるのでご存じかとは思いますが、日本語の文書作成では必須ともいえる縦書きができません。あとルビや圏点を入れるのもできないですね。特に紙の出版物に関わる機会の多い方は、これはかなり厳しいのではないかと思われます。

ちなみにテキストの禁則処理については、どこにも設定項目が見当たらないのは相変わらずですが、初期から比べるとだいぶ改善しているので、普通の人が普通に使う分にはそこまで気にならないんじゃないでしょうか…

その他

Adobe というか Creative Cloud との比較でいうと、文字関係以外ですと例えば

  • AI 機能は無料範囲では使えない(要 Canva プロアカウント)
  • 動画制作や Web サイト制作関係の機能は含まれない

あたりがパッと思いつきますが、前者は CC のサブスクリプションと比べれば格段に安いですし、後者も人によっては絶対に必要という訳ではないでしょう。もし必要であれば、動画なら Davinci Resolove Studio などを(浮いた Adobe 税分で🤣)購入すればいいと思いますので、そこまで障壁にはならないような気がします。

…とこうやって並べてみると、弱点の数的にはそんなに多くないのですが、その内容が特定の人には「これがないのんはちょっと困る!」的な機能だったりするので、乗り換えできる方・できない方の分岐点というか、基準は割と明確な感じもします。

脱 Adobe しても OK な方・向かない方

まず大丈夫な方は、あまりテキストが関わらない作業を行っている方…写真などをレタッチしたり、イラストを描いたりといったような作業が中心の方々でしょうか。僕のように基本はブログや SNS にアップするコンテンツの制作とか、ほとんどの業務がデジタル領域で簡潔するような方々も大丈夫そうです。

あとはデータの受け渡しの都合、他に代替アプリがない、新しいソフト覚えるの面倒くさい、「こいつ Adobe も使えんのか」とナメられたくなどで、仕方なく(あるいは無理して)Adobe を使ってたような方、とかでしょうか😅

逆にもう少し落ち着いて考えた方が良さそうなのは、やっぱり紙の制作物に関わってるような方々が挙げられます。特に縦書きができないのは致命的でしょうし、無理やり解決したところでじゃあそのデータどうやって入稿するんやという話もあるでしょう(今のところ PDF 変換以外の方法はなさそうです)。

また、文字詰めやタイポグラフィにこだわる方、長文テキストを配置する機会の多い方は、乗り換え不可能とか止めておいた方がいいとまでは言いませんが、作業的にかなり負担が増えることは認識しておいた方がいいかと思います。後述の方法を使えば多少はマシになりますが、フォントが限られてしまいますので、その分デザインの自由度も下がってしまいます。

それでも脱 Adobe すると決めたなら

以上を覚悟の上で、それでも乗り換えたいというのであれば、僕も Affinity ユーザーなので引き止めはしません🤣 実際アプリは軽いし使いやすいし、一部を除けばほとんどの作業はまかなえるはずです。

そんな方々にひとつだけ、必ずやっておいた方がいいと思うことをお伝えしておきますと、とりあえず、えのころ明朝とえのころ角ゴシックはダウンロードしておけ! …でしょうか😅

えのころ明朝・角ゴシックを入れましょう

えのころ明朝えのころ角ゴシックは、それぞれ Adobe のオープンソース・フォント、源ノ明朝源ノ角ゴシック(= Noto Serif / Sans JP でもあります)の日本語関連の OpenType 機能を Affinity アプリで有効にできるように改変を加えたフォントです。名前に vert が入っているバージョンは文字が 90 度傾いており、テキストボックスを 90 度回転させることで疑似的に? 縦書きを実現できるようになっています。

つまりこの 2 フォントがあれば、Affinity における懸案事項…文字詰めの問題と縦書きの問題をひととおりは解消することができる訳ですね。しかも元が源ノ明朝に源ノ角ゴシックですから、その品質は保証されているといっていいでしょう。オーソドックスなフォントなのでどんな場面にでも使えるという訳ではないですが、持っておいて損はないのは確かです。

手に入れるには pixiv アカウントが必要ではありますが、ダウンロード自体は無料でできます(元がオープンソースなので当然)。ちなみにこのフォントを配布しているスタジオスズメさんでは、他にも既存のオープンソース・フォントを Affinity に対応させたバージョンを数多く配布されていますので、そちらもご覧になられるといいかと思います。

…なお、これは勝手に宣伝というかお知らせしてるだけで、別に何ももらっていません。涙

そんな訳で

永久無料になった Affinity に興味を持った方に向けて、特にこれで Adobe 税から脱却できるかも…などと淡い期待を抱いているような方に、両方使ったことのある僕の立場から、これだけは知っておいてほしいかなぁ…と思うことを書いてみました。

まぁ今日書いたようなことは多分他所でもすでに触れられていて、「そんなんとっくに知っとるわ! 他の話をせえ!!」という内容だったかもしれません。もしそうでしたらお手間をとらせて申し訳ございませんでした、と謝っておきます。涙

まぁ何度も言いますが無料ですから、とりあえず手に入れて試してみて、それで使えそうだったら使い続ければいいし、こりゃダメだと思ったら止めればいいだけの話ですね。まずは触ってみましょう! たぶん一般の方であれば大半は「あ、もうこれでいい」って感じられるはずです。プロは知らん。

  1. Canva AI 機能を使わない場合。 

  2. あと僕はもう使ってないので知らんかったのですが、Illustrator の現バージョンはとても不安定だそうで、その辺の不満もたまってるのでしょうか… 

  3. ちなみにユーザー歴としてはそれ以前、v1 の頃から 5 年ほどの付き合いです。 

  4. 日本語フォントの中にもペアカーニングが入ってるものが存在するようで、手元にあるものだと游明朝体は一部のかな文字間(「え」と「ず」、「ナ」と「ル」など)で自動調整が効きました。